アリババとテンセントが休戦?チャンスか?

  アリババとテンセントが休戦を検討している噂?ニュース?が巷に流れています。BABAの株価が7/8の安値(198.26ドル)から直近の7/22の終値(214ドル)まで8%ほど反発されています。


 言うまでもなく、アリババとテンセントがそれぞれ中国ECとSNSの2大巨頭です。かつてはBATの一角を占めるBAIDUが検索エンジンを守るのが必至で、今は自動運転に活路を見出そうとしていて、ATの足元にも及ばなくなっています。

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  引用元:https://jasonshin.blog/world/ranking/ranking-market-capitalization-2021/
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 この2大巨頭が10数年近く、周囲をとことん巻き込み、熾烈な戦いを繰り広げてきました。

 休戦影響を見る前にどんな戦いをしてきたのか見てみましょう。下図は東洋証券が整理したアリババVsテンセントの主要ビジネスです。Eコマースから旅行、地図、モバイル決済、クラウドまで、電力水道等の社会インフラと製造業、純粋な銀行業以外、中国人の生活が2大巨頭からはみ出ることがほぼありません。私も中国に出張に行く時、思う存分に2社のサービスを楽しんでいました。この2社がここ10年の中国社会にもたらす影響がどれほど大きいかそのサービスを使う度に思い知らされました。

時は8年前


 2013年2月末の杭州はまだすこし肌寒い時期でした。「華夏同窓会第20回」という会議が杭州のアリババ本社で行われました。これはただの同窓会ではありません。Jack馬(BABA)、Pony馬(Tencent)、Robin李(BIDU)、王健林(萬達グループ総裁)、李東生(TCLグループ総裁)等中国TopクラスのBossたちが勢揃いでした。
 「10年前、みんなのビジネスがまだここまで大きくなかったね、Jackの車もぼろかったね」とPony馬が思い出したように話しました。
 「確かに大した車じゃなかったけど、白いHONDAの新車だよ」とJackが返しました。
 その後、Ponyの15%のBABAへの投資機会を逃した話題で会話が弾んでいました。
 引用:https://www.huxiu.com/article/442727.html
 懐かしさを語る場合ではない、この時のテンセントとアリババはすでに無数の戦いを経験しています。

戦いは宿命

「メトカーフ法則」と「2-Sided Market」

 アリババとテンセントはお互い、戦いを避けてきました。アリババはECに専念、テンセントはSNSの堀を深く築きました。しかしインターネットでビジネスを展開した結果、ビジネスの重なりは不可避です。
 「メトカーフ法則」によると「ネットワーク通信の価値は、接続されているシステムのユーザ数の二乗(n2)に比例する」と言われています。インターネット企業の時価総額で言うと、ActiveUserの2乗に比例するでしょう。FaceBook、Twitter、中国のWeibo等のプラットフォーム自体が費用を徴収しないですが、User間のコミュニケーションを必死に活性化させようとしています。その活性化がプラットフォームのコンテンツの露出度を増幅させ、プラットフォームに投入される広告の価値も増大されます。
 「2-Sided Market」はTAOBAO(T-MALL)、Amazon、UberEats、DIDIのようにゲームの両方をプラットフォームに引き寄せています。消費者(需要)間の活性化はあまりないが、提供側と需要側では強く且つ有効なコミュニケーションが行われています。
 打ち手は様々、ネットノードを増やし、ユーザ間の活性化、需要側への刺激、提供側商品の規模効果によるコストダウン等・・・どんなインターネット企業でも最後の最後、この2つの法則で同じ戦場に追い込まれてしまっています。

導火線

 2004年、テンセントのUser数が3億突破。香港に上場。
 QQスペースをリリース、当時中国一の開心ネットと人々ネットを狙撃。
 テンセントニュースをリリースし、ポータルサイト网易、盛大を切り落とす。
 勝利を収めたテンセントがECに手を伸ばしました。拍拍ネットを立ち上げました。

今日まで続いたバトル

 Ponyの胸算用はTAOBAOより、拍拍ネットがQQという膨大なユーザを有しているSNSに基づいているため、商品購入前のトークでよりコミュニケーション効果があるということです。また、テンセントの資金力を盾にして、サプライヤーの使用料を3年間無料にするという大技を放ちました。当時サプライヤーから費用徴収を検討しているTAOBAOにとってはダメージが大きかったです。そういえば、最近のPAYPAYに似ていますねww。
 中核ビジネスの逆鱗に触れられたアリババが無料を継続し、戦争の規模を拡大させました。渾身の大技を使ったのに、一撃必殺できなかったテンセントが、自身のビジネス領域が広すぎたせいか、勢いが衰えてしまい、拍拍ネットが徐々に劣勢に立たされ、結果京東(JD)の傘下に収められました。泥戦から這い上がったアリババが喜んでいる場合ではありません。京東の上場前に15%の株を取得したのはテンセントです
 奇襲されたJack馬がSNS商品「来往」をリリースしました。1ヶ月でユーザ数が1千万に達しましたが、数億のテンセントにかなわず、資本の燃焼と共に敗退されました。
 SNSとECの主要業務の攻め合いのみでなく、2013年からの数年間モバイル決済領域でもアリPayとWechatPayがトップの座を争いました。
 2014年にWechatが紅包(年玉?祝儀袋?)機能をリリース、CCTV(中国中央テレビ)の年越し番組(春晩)の筆頭スポンサーになり、紅包を1.2億元(17億円)ユーザに送りました。4時間の番組の中、Wechatの(揺一揺)機能の使用回数が72億回でした。
 その後、2016年と2017年はアリババがスポンサーを取りました。
 2017年以降、アリババとテンセント本体はもちろん、代理人(投資した企業)立てるまで戦火が蔓延しました。東洋証券が整理した図が分かりやすかったため、載せさせていただきました。ライドシェア分野の滴滴(DIDI)と快的戦争だけでなく、出前分野は饿了么とMEITUAN、それぞれのクラウドも立ち上げました。
 
 

高いベルリンの壁が崩壊?


 アリババ系とテンセント系の間は高いベルリンの壁があります。典型例はWechatではTAOBAO店舗あるいは商品を共有できません。共有するには以下のSTEPになります。

 1.TAOBAOで火星文(下図の文字化けのような暗号)をコピーする。
 2.それをWechatで貼り付け、友達に共有する。
 3.友達がコピーし、TAOBAOを開き、貼り付け、商品情報を開く。

 通常、拼多多(PDD)や京東(JD)のようなテンセント系ECは共有されたら、クリックすればいいのに、TAOBAOの商品共有が極めて難しいです。
 また、TAOBAO系では通常アリPayが支払い手段として広く使われています。Wechatペイは禁止されています。使えません。
 この2つの典型例は独占地位の濫用と言わざるを得ないでしょう。消費者にとっても非常に使いづらいです。

 なぜ両者が和解?

 なぜ犬猿の仲の両社がここまで来て和解を検討しようとしていますか。去年のアリババに対する独占的地位濫用(2択一)の罰金が1つの解でしょう。また、中国最大の政治経済系新聞、新華社の「半月談」が7月7日に「Superプラットフォームは何を殺したのか」との社説を発表し、インターネット企業の独占状況を痛烈に批判しました。また、今年に入って、市場監督総局がインターネット企業に対し、22件も処罰しました。その中アリババ系は6件、テンセント系が5件でした。

和解するとどうなる?

 投資家にとってこれが一番の関心事でしょう。お互いのエコシステムをオープンすることによる影響がほぼ全中国国民に及ぶと考えています。

 まずは

 モバイル決済です。現在アリPayのシェアは55%、Wechatペイは39%ほどです。TAOBAOユーザが商品購入時Wechaペイを使うことができれば、相当な地殻変動が起きるでしょう。

 次に

 EC環境に関してはWechatの月間Activeユーザ数は10.7億です。今までTAOBAOのユーザが商品情報を共有する時に前述の非常にめんどいやり方で我慢するしかありません。アリババはこのActiveユーザを喉から手が出るほどほしかったでしょう。1つ注意しなければならないのはアリババのライバル拼多多(PDD)は当初SNSをてこにして、ユーザ数を格段に伸ばしてきました。本当にこの膨大なユーザへの入口が解禁できたら、アリババにとっての商機が計り知れません。個人的にはモバイル決済で奪われるシェアより上回るでしょう。ただ、テンセントはそう簡単にオープンしないと思います。
 

 最後

 競争環境の変化です。独占禁止により、自分が投資した会社しか優遇させない、他の企業を禁止させる手口が利かなくなります。TIKTOKのビデオが簡単にWechatに共有できたり、YUKUを使ってテンセント自作のドラマ・映画を見たり、BAIDUでWechat内の文章が検索できたりするようになるかもしれません。長期的にこれは中国のネット企業家にとってはいいことかと思います。

 今のBABAの株価を見て嘆いている投資家は多くいます。10年前のGoogle、AMZN、FB特にMSFTを見てください。今の中国はインターネット業界をゼロサムゲームからプラスサムゲームに変えようとしています。反独占は決してMSFTをつぶしてはいない、むしろOffice365、Azure等、ToB、ToCすべてを飲み込むエコシステムを生み出しています。
 私はS&Pを最大の投資先として運用していますが、中国のネットワーク企業もあきらめずに見守りながら、投資していきたいと思います。

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コメント

  1. ヤフー!のアリババ掲示板から来ました。中国を理解してる視点の記事がとても面白いです、最近始めたのですか?新しい記事も楽しみにしています。

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  2. 小柳様
    応援ありがとうございます。
    そうですね。先週からいろいろ書いてみています。
    よろしくお願いします。

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